管理職を辞めたい。そう思っても、口に出すまでには時間がかかります。言えば評価が下がるかもしれない、周りに迷惑がかかる、自分の我慢が足りないだけかもしれない。そう考えているうちに、日が過ぎていきます。
私は部長職で、評価をつける側にいます。そして「管理職を辞めたい」と言われる側でもあります。その立場から見て、最初に確かめているのはひとつだけです。辞めたいのは役割なのか、会社なのか。
ここを分けないまま動くと、次の会社でも同じところで詰まります。
この記事では、厚生労働省のデータで40代の辞める理由がどう変わるのかを見たうえで、言われる側から見えていることを書きます。
なぜ40代になると、管理職を辞めたくなるのか?
能力が足りないからではなく、自分の手でやれる仕事が減ったからです。
厚生労働省の「令和7年 雇用動向調査」(2026年8月31日公表)で、転職した人が前職を辞めた理由を年齢階級別に見ると、40代前半でひとつの項目が上に出てきます。
| 理由(男性) | 35〜39歳 | 40〜44歳 | 45〜49歳 |
|---|---|---|---|
| 能力・個性・資格を生かせなかった | 6.9 | 11.0 | 6.5 |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.5 | 7.3 | 13.3 |
| 会社の将来が不安だった | 12.7 | 10.7 | 5.8 |
| 給料等収入が少なかった | 11.2 | 9.5 | 11.5 |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 11.1 | 9.6 | 7.5 |
40〜44歳で「能力・個性・資格を生かせなかった」が11.0%と、この年代でいちばん高くなります。35〜39歳の6.9%から、5年で1.6倍です。
この年代は、管理職になる時期と重なります。「令和7年 賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表)では、課長級の平均年齢は49.5歳、部長級は53.1歳です。40代前半で課長になった人は、平均より早い側にいます。
そして管理職になると、自分の手を動かす仕事が減ります。決めること、説明すること、調整することが増えます。「能力を生かせない」という感覚は、能力が落ちたから起きるのではなく、能力の使い先が変わったことから来ています。
40代の前半と後半で、理由はどう入れ替わるのか?

前半は自分の使われ方に、後半は人間関係に移ります。
上の表をもう一度見ると、45〜49歳では「職場の人間関係が好ましくなかった」が13.3%で最も高くなります。40〜44歳の7.3%から、ほぼ倍です。
一方で「会社の将来が不安だった」は、35〜39歳の12.7%から45〜49歳の5.8%まで、下がり続けます。
並べると、見ている方向が移っていくのが分かります。
- 30代後半は、会社のほうを見ている
- 40代前半は、自分のほうを見ている
- 40代後半は、周りのほうを見ている
管理職の期間が長くなるほど、扱う対象が人になります。判断も説明も、相手のいる仕事です。ここで消耗するのは自然なことで、性格の問題ではありません。
「辞めたい」は、役割と会社のどちらを指しているのか?
多くは役割のほうです。そして、ここを分けないまま動くと、次の会社でも同じところで詰まります。
本人はたいてい、区別がついていません。ふたつが同時に来ているように感じるからです。ただ、話を聞いていくと分かれていきます。
- 役割の話をする人は、仕事の中身を挙げます。決めることが多すぎる、板挟みになる、自分の時間が残らない
- 会社の話をする人は、方針を挙げます。この事業の先が見えない、何年も同じことをやっている
前者のまま転職すると、転職先でも管理職として採られます。40代の中途採用はマネジメント込みで見られることが多いので、役割は変わりません。会社だけが変わって、しんどさはそのまま持ち越しになります。
逆に、会社のほうが理由だったのに「自分は管理職に向いていないんだ」と読み替えてしまうと、降りなくてよかった役職を降りることになります。
どちらなのかは、紙に書くと早く分かります。いま嫌だと感じていることを10個書き出して、「役割」と「会社」に振り分けてみる。偏っていれば、それが答えです。
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辞めたいと言われる側は、何を見ているのか?
私は人員整理の場面で、人選の基準づくりに関わったことがあります。そのとき最初に覚えたのは、役割を外すという判断は、外される側が想像するよりずっと重いということでした。だから「降りたい」と言われたときに、軽く受け取ることはできません。
そのうえで、こうも思っています。本人から申し出た降職と、会社から外す降職は、まったく別のものです。前者は本人が選んだ配置で、後者は評価の結果です。同じ「課長でなくなる」でも、社内での読まれ方が違います。
会社の側が役割を外すときに何が必要になるのかは、整理解雇に「4要件」という決まりはありませんのほうに、基準づくりの話として書きました。
もうひとつ、言われる側として見ているものがあります。申し出てくる人は、たいてい「辞めたい」から始めません。先に、相談の数が減ります。自分で抱えて、決め終わってから言いにくる。だから申し出を受けた時点では、引き留めの余地はあまり残っていません。
引き留められたくないなら、それでいいと思います。ただ、まだ迷っているなら、決め終わる前に一度話したほうが、選べるものは多く残ります。
役職を降りると、収入はどれくらい変わるのか?

課長級と非役職者の差は月額で21.9万円です。ただしこれは、同じ人が降りたときの変化ではありません。
| 役職 | 所定内給与額(月額) | 平均年齢 | 平均勤続年数 |
|---|---|---|---|
| 部長級 | 63万5,800円 | 53.1歳 | 22.6年 |
| 課長級 | 52万9,200円 | 49.5歳 | 20.9年 |
| 係長級 | 39万9,200円 | 45.4歳 | 17.5年 |
| 非役職者 | 31万500円 | 41.8歳 | 10.8年 |
ここは読み方に注意が要ります。この表は役職ごとに別の人を集めた平均です。課長級の平均は49.5歳・勤続20.9年、非役職者の平均は41.8歳・勤続10.8年。つまり21.9万円の差には、年齢と勤続年数の差も混ざっています。
「いま課長の自分が降りたら21.9万円下がる」という読み方はできません。実際にどうなるかは会社の賃金制度によります。役職手当だけが外れる会社もあれば、等級ごと下がる会社もあります。
確かめる先は統計ではなく、自分の会社の賃金規程です。役職手当の額と、等級が連動するかどうか。この2つを読めば、だいたいの見当はつきます。
役職を降りるのは、負けなのか?

負けかどうかを決めるのは、降りたこと自体ではなく、降りた理由を自分の言葉で説明できるかどうかです。
評価をつける側から見ると、この差ははっきり出ます。「しんどかったので降りました」だけだと、職務経歴書に書ける行が減ります。一方で「この領域で手を動かすほうが成果が出ると判断して、自分から役割を移しました」なら、それは経歴として読めます。
同じ降職でも、逃げたのか、選んだのか。あとから読む人に分かるのは、そこだけです。だから降りる前に、説明の形を先に作っておくほうがいいと思っています。
これは辞めるときも同じです。30代の「辞めたい」がどう変わっていくかは、辞めたい理由は、30代の前半と後半で入れ替わりますにまとめました。
辞める前に、確かめておくと後で効くこと
- 役割と会社を分けて、紙に書く。嫌なことを10個挙げて振り分ける。偏りがそのまま答えになります
- 自分の会社の賃金規程を読む。役職手当がいくらで、等級が連動するのか。想像で計算しない
- 降職の制度があるか確かめる。自己申告で役割を移せる仕組みを持つ会社は増えています。無ければ無いで、それも情報です
- 降りた理由の説明を、先に1行で書いてみる。書けないなら、まだ理由が固まっていません
- 社外の人に一度話す。社内で話すと、その時点から人事の話になります
急がなくていいと思います。ただ、決め終わってから話すのと、迷っているうちに話すのとでは、残る選択肢の数が違います。
よくある質問
Q. 管理職を辞めたいと上司に言ったら、評価は下がりますか?
A. 会社と伝え方によります。「もう無理です」という伝え方だと、任せられる量の判断に影響することはあります。一方で「この領域に集中したい」という形で、やりたいことと一緒に伝えると、配置の相談として扱われやすくなります。評価制度そのものに「降職を申し出たら下げる」と書いてある会社は、まずありません。
Q. 一度降りたら、もう戻れませんか?
A. 制度として戻れる会社もあります。まず就業規則と人事制度の資料を確かめてください。ただ、戻れるかどうかより、戻りたくなるかどうかのほうが大事だと思います。降りてみて楽になったなら、それが答えです。
Q. 40代で管理職を降りたら、転職で不利になりますか?
A. 降りた理由を説明できるかどうかで変わります。40代の中途採用ではマネジメント経験を見られることが多いので、経験そのものは残ります。「やってみて、自分は専門側で成果を出すほうが向いていると判断した」という説明ができれば、不利にはなりにくいです。
Q. 辞めたい気持ちが強いとき、すぐ動いたほうがいいですか?
A. 役割と会社を分けてからにしてください。分けずに動くと、転職しても同じ理由で苦しくなります。分けるだけなら、紙とペンで30分です。
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参考にした一次資料
- 厚生労働省「令和7年 雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表)表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合
- 厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2026年3月24日公表)第8表 役職別にみた賃金
この記事は一般的な制度と統計の説明であり、個別の法的助言ではありません。降職や退職の手続きは会社の規程によって異なります。