「部下が育たない」と検索する人は、たいてい自分を責めています。教え方が悪いのか、任せ方が下手なのか、そもそも自分に人を育てる資質がないのか。
検索して出てくるのは、研修会社や人事システムの会社が書いた「育成の仕組みをどう整えるか」という記事です。組織としては正しいのですが、いま知りたいのはそこではないと思います。知りたいのは、この状態が自分だけのものなのか、そして明日から何を変えればいいのか、この2つのはずです。
私は評価をつける側にいます。部下を育てられたと感じたこともあれば、最後まで噛み合わなかったこともあります。この記事では、まず公的な調査で「育たない」が何を指しているのかを確認し、そのうえで、評価をつける側から見て差が出るところを書きます。
なぜ「部下が育たない」と感じるのでしょうか?
育っていないのではなく、育った部分が自分の見えるところに出ていないことが多いからです。
人が仕事を覚える順番は、だいたい決まっています。まず手順を覚え、次に例外に気づき、最後に自分の判断で動くようになります。このうち上司から見えるのは最初と最後だけです。真ん中の「例外に気づいている」段階は、本人のなかで起きているので外からは見えません。
見えないまま数か月が過ぎると、上司の側には「同じことを何度も説明している」という記憶だけが残ります。これが「育たない」という実感の正体であることが、かなりあります。
もちろん、本当に噛み合っていない場合もあります。それを分けるために、まず外側の数字を見ます。
会社はこの問題をどう見ているのでしょうか?
会社側が挙げる問題点の1位は、部下の能力ではなく「指導する人材が不足している」です。
厚生労働省の「能力開発基本調査」は、常用労働者30人以上の事業所を対象にした調査です。令和7年度調査(2025年10月実施、有効回答7,194事業所)では、人材育成に関して何らかの問題があるとした事業所は80.1%でした。
その問題点の内訳が、この記事のいちばん大事な数字です。
| 人材育成に関する問題点 | 割合 |
|---|---|
| 指導する人材が不足している | 59.5% |
| 人材を育成しても辞めてしまう | 51.6% |
| 人材育成を行う時間がない | 45.5% |
| 鍛えがいのある人材が集まらない | 27.5% |
| 育成を行うための金銭的余裕がない | 14.3% |

上位3つは、すべて育てる側の話です。指導する人がいない、育てても辞める、時間がない。いっぽう、部下の側に原因を置いた項目である「鍛えがいのある人材が集まらない」は27.5%で、4番目にとどまります。
つまり、8割の事業所が人材育成に問題を感じていて、その原因を、会社自身がおもに自分たちの側に置いているということです。
「自分の教え方が悪いのではないか」と考えている人にとって、この数字の意味は少し違う方向を指します。教え方の巧拙より前に、指導する人手と時間が足りていない状態が、調査に答えた事業所の半分以上で起きています。
計画があるかどうかで、何が変わるのでしょうか?
計画的なOJTを実施している事業所は6割で、残りの4割は計画のないまま「育たない」と言っています。
同じ調査で、計画的なOJTを実施した事業所は64.1%でした。正社員に対しては60.6%、正社員以外に対しては25.1%です。OFF-JT(通常の業務を一時的に離れて行う研修)を実施した事業所は72.6%、正社員に対しては70.9%でした。
ここでいう計画的なOJTとは、日常の業務のなかで教えることすべてを指すのではありません。育成の計画を立て、何を、いつまでに、誰が教えるのかを決めたうえで、意図的・計画的・継続的に行うものを指します。
背中を見て覚えろ、という育て方が悪いという話ではありません。ただ、計画のないところで「育っていない」と判断するのは、ものさしのない場所で長さを測るようなものです。何ができるようになれば育ったことになるのかを決めていないと、いつまでも足りない気がします。
これは評価をつける側にも同じことが言えます。期末に評価をつける段になって、この人に何を期待していたのかを思い出せないことがあります。そういう年は、たいてい本人にも納得されません。
あわせて読む:人事評価に納得いかないとき、評価をつける側が見ているもの
育つ人と育たない人は、何が違うのでしょうか?
評価をつける側から見ると、差が出るのは能力よりも「一度やった仕事を、次に自分の形にして返してくるかどうか」です。
同じ仕事を2回目に渡したとき、1回目とまったく同じ形で返ってくることがあります。手順は守られていて、期日も守られている。悪くはありません。ただ、1回目にどこで詰まったのか、何を確かめたのかが、本人のなかに残っていないように見えます。
いっぽうで、2回目に順番を入れ替えてくる人がいます。先に確認しておいたほうが早い箇所を先に持ってきていたり、こちらが毎回指摘していた点を最初から潰してあったりします。仕事の出来としては1回目と大差ないこともありますが、この差は次の半年で大きくなります。
これは頭の良さの話ではありません。自分がやった仕事を、終わったあとに一度見直す習慣があるかどうかです。そして、この習慣は本人の性格というより、返ってきたものに対して上司が何を言ったかに強く影響されます。
ここが、育てる側が動かせるところです。
任せる仕事は、どの大きさで渡せばいいのでしょうか?
結果が出るまでの期間が、自分が待てる長さを超えないところで切ります。

「育たない」と感じている状況の多くで、渡している仕事が大きすぎるか、小さすぎるかのどちらかになっています。
小さすぎると、作業しか残りません。判断が入らない仕事をいくら重ねても、判断は身につきません。
大きすぎると、途中で不安になった上司が口を出します。口を出された側は、自分で決めた部分が結局は覆るので、次から決めなくなります。これを何度か繰り返すと、指示待ちに見える状態ができあがります。指示待ちの部下がいるのではなく、指示待ちにさせた経緯があることのほうが多いと思います。
目安として使いやすいのは、自分が口を出さずに待てる期間で切るという決め方です。2週間なら見ていられるなら、2週間で結果が出る大きさに割ります。1か月は待てないと思うなら、1か月の仕事を渡してはいけません。渡したうえで2週間目に口を出すくらいなら、最初から2週間の仕事にして、そこで一度受け取るほうが、本人には判断の経験が残ります。
フィードバックはいつ返すのでしょうか?
期末ではなく、判断が起きた直後に返します。

評価の時期にまとめて伝えると、本人にとっては半年前の出来事です。そのときどう考えてそうしたのか、本人ももう覚えていません。覚えていないことについて評価されると、人は納得しません。
そして、まとめて伝えると、どうしても足りなかったところの話が中心になります。3か月前にうまくいった判断について、その場で何も言われず、期末に「あれは良かった」と言われても、行動は変わりません。
返すのは、判断が起きた直後です。内容は短くて構いません。どの判断について言っているのかが本人に伝われば、それで足ります。
これは時間のかかる話に見えて、実際には期末にまとめて時間を取るより短く済みます。半年分を思い出す作業がなくなるからです。
育たないのは誰の責任なのでしょうか?
責任の所在を決めても、状況は動きません。動くのは、任せ方と時期を変えたときだけです。
この問いは、考え始めると止まらなくなります。採用の問題なのか、配置の問題なのか、自分の指導の問題なのか。ただ、どれに決めても明日の仕事は変わりません。
会社の調査に現れているとおり、指導する人手と時間が足りない状態は、かなり広い範囲で起きています。そのなかで、ひとりの管理職が動かせるのは、渡す仕事の大きさと、言葉を返す時期の2つです。この2つは、上の許可も予算も要りません。
逆に言えば、この2つを変えてもなお動かないとき、そこから先は個人の工夫の範囲を超えています。
それでも変わらないときは、どう考えればいいのでしょうか?
相性と時間の問題を、能力の問題として扱わないことです。
人には、伸びる時期と伸びない時期があります。同じ人でも、担当する領域が変われば景色が変わることがあります。配置を変えたとたんに動き出す人を、私は何度か見ています。逆に、こちらが何を変えても最後まで噛み合わない組み合わせもあります。
そのときに「この人は能力が低い」と結論づけてしまうと、記録に残る形でその人の評価が固まります。評価をつける側として言えば、これはかなり重い決定です。能力の評価は、異動しても引き継がれていきます。いっぽう、相性や時期の問題は、環境が変われば消えます。
噛み合わないと感じたときに、まず疑うのは組み合わせのほうです。そのうえで動かせる余地がないなら、それは自分ひとりで抱える問題ではなく、配置を決める人と共有する問題になります。
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まとめ
- 人材育成に問題があるとした事業所は80.1%。問題点の1位は「指導する人材が不足している」59.5%で、部下の側に原因を置く項目は4番目にとどまる
- 計画的なOJTを実施している事業所は64.1%。何ができれば育ったことになるのかを決めないまま「育っていない」と判断している場合がある
- 評価をつける側から見て差が出るのは、一度やった仕事を自分の形にして返してくるかどうか。その習慣は、返ってきたものに上司が何を言ったかに影響される
- 渡す仕事は、自分が口を出さずに待てる期間で切る。大きすぎると途中で口を出し、結果として決めない人をつくる
- フィードバックは判断の直後に返す。期末にまとめて返すと、本人が覚えていないことについて評価することになる
- 任せ方と時期を変えても動かないときは、能力の問題として固定せず、組み合わせの問題として扱う
育てる側の負担は、いまかなり広い範囲で限界に近づいています。自分の教え方だけを疑う前に、外側の数字を一度見ておくと、何を自分で抱えるべきかの線が引きやすくなると思います。
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出典
厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2025年10月実施/事業所調査 有効回答7,194事業所)