定年を迎えた翌日も、同じ会社に、同じ時間に出勤する。いまの日本の会社では、それがふつうの姿になりつつあります。
労務行政研究所の「人事労務諸制度実施状況調査」(2026年1〜3月実施、上場企業を中心とした298社)では、定年後の再雇用制度がある会社は90.3%でした。60歳以降も働き続けることは、多くの人にとって特別な選択ではありません。
いっぽうで、再雇用になって最初の給与明細を見て、思っていた以上に下がっていたと驚く人も少なくありません。私は管理職として、職場で再雇用の話を聞く立場にいます。話を聞いていて感じるのは、つらいのは下がること自体より、それを給与明細で初めて知ることだということです。
この記事では、定年後再雇用で給料がなぜ下がるのか、どこまでが当たり前でどこからが問題になりうるのかを、制度と判例の考え方から整理します。
※この記事は一般的な制度の説明です。個別のケースの判断や法的な助言ではありません。迷ったときは、会社の人事部門や労働局、専門家に相談してください。
定年後再雇用で、給料はなぜ下がるのでしょうか?
定年でいったん雇用契約が終わり、再雇用では別の契約として給料が決め直されるからです。
再雇用は、有期契約として結ばれるのが一般的です。定年前の賃金表や昇給の仕組みはそのまま引き継がれず、再雇用者向けの別の決め方が使われます。そのため、仕事の中身がほとんど変わらなくても、給料が下がることがあります。

再雇用になると、仕事は変わるのでしょうか?
変わらない人のほうが多数派です。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2019年調査)では、60代前半の継続雇用者の仕事について、次のような結果が出ています。
| 定年後の仕事 | 割合 |
|---|---|
| 定年前とまったく同じ仕事 | 44.2% |
| 同じ仕事だが、責任の重さが軽くなる | 38.4% |
出典:労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2020年3月公表)
2つを合わせると8割を超えます。仕事は同じなのに給料は下がる。ここに、再雇用の給料をめぐる違和感の根っこがあります。
いまの年収が同じ年代の中でどのあたりにいるのかは、国の統計(令和7年賃金構造基本統計調査)で確かめられます。
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同じ仕事なのに給料が下がるのは、許されるのでしょうか?
下がること自体は直ちに違法ではありませんが、「定年後だから」という理由だけでは説明になりません。
パートタイム・有期雇用労働法の考え方
再雇用で有期契約になった人には、パートタイム・有期雇用労働法が適用されます。同法の8条は、正社員との間の不合理な待遇差を禁じています(均衡待遇)。また14条2項は、本人から求められたら、待遇差の内容と理由を会社が説明しなければならないと定めています。
厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」でも、定年後に継続雇用された人について、定年後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに待遇差が不合理ではないと認められるものではないという考え方が示されています。

判例はどう考えているのか
定年後再雇用の基本給が大きく下がったことが争われた名古屋自動車学校事件では、最高裁判所(2023年7月20日)が、「定年時の基本給の60%を下回る部分は不合理」とした高裁の判断を取り消しました。そのうえで、基本給の性質や支給の目的、労使の話し合いの経緯などを検討し直すよう、審理を差し戻しています。
差し戻し後の名古屋高等裁判所(2026年2月26日)は、基本給の減額を不合理と判断したと報じられています。
ここから読み取れるのは、「何割までなら下げてよい」という一律の線はなく、その会社の基本給が何に対して払われているのか、どう話し合って決めたのかが問われるということです。
給料が下がったぶんを補う制度はあるのでしょうか?
高年齢雇用継続給付がありますが、2025年4月から縮小されています。
雇用保険の高年齢雇用継続給付は、60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合に支給されます。ただし、60歳になったのが2025年4月1日以降の人は、支給の上限が賃金の15%から10%に引き下げられました。
これから定年を迎える人は、先輩たちのときより補われる幅が小さくなっています。先輩の話を基準に考えないほうが安全です。
60歳以降に年金を受け取りながら働く場合は、在職老齢年金の仕組みも関わります。2026年4月からの変更は在職老齢年金の記事にまとめました。
定年前に、何を確かめておけばよいのでしょうか?
3つあります。どれも、定年の1年以上前に確かめておくのが理想です。

再雇用の規程と、給料の決め方
就業規則や再雇用規程に、再雇用後の給料がどう決まるかが書かれています。基本給がどうなるのか、賞与や手当は続くのかを、自分の目で確かめておくと、最初の給与明細で驚かずに済みます。
仕事と責任がどう変わるのか
給料の差に納得できるかどうかは、仕事と責任がどれだけ変わるかで決まります。「同じ仕事を続けてほしい」と言われているのに給料が大きく下がるなら、その理由を聞いておく価値があります。パートタイム・有期雇用労働法では、待遇差の理由の説明を求めることができます。
外で働いた場合と比べる
再雇用だけを前提にせず、外で働いた場合にどう評価されるかも知っておくと、条件を冷静に比べられます。役職を外れてからの働き方は、役職定年で50代に起きることでも書きました。
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まとめ
- 定年後の再雇用制度がある会社は90.3%(上場企業中心の調査)
- 再雇用では別の契約で給料が決め直されるため、仕事が同じでも下がることがある
- 定年後も「まったく同じ仕事」が44.2%、「同じ仕事で責任が軽くなる」が38.4%
- 「定年後だから」だけでは待遇差の理由にならない。会社には説明の義務がある
- 高年齢雇用継続給付は、2025年4月以降に60歳になった人から上限が15%から10%に下がった
- 定年前に、再雇用規程・仕事と責任の変化・外での評価の3つを確かめておく
再雇用で給料が下がること自体は、多くの会社で起きています。問題になるのは、下がる理由が説明されないまま、最初の給与明細で知ることです。定年の前に一度、自分で確かめておけば、そのあとの数年を選ぶ材料になります。
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