55歳、あるいは57歳。社内の誰かが「もうすぐ役職定年だから」と話しているのを聞いて、自分の年齢を数えたことがあると思います。
調べようとすると、出てくるのは「◯%の企業が導入している」「年収は◯割下がる」といった数字です。ただ、その数字がいつ調べられたものかまで書いてある記事は、あまり多くありません。
私は事業会社で部長職として働いていて、評価をつける側にいます。役職を外れた方を、同じ部署で受け入れたこともあります。そこで見てきたかぎり、役職定年で最初に効いてくるのは給与ではありませんでした。
この記事では、いま手に入る数字がどこまで信用できるのかを整理したうえで、受け入れる側から見て実際に何が変わるのかを書きます。
役職定年の実態を調べた公的な統計は、いまどうなっているのか?
国が役職定年制を詳しく調べたのは、2007年が最後です。
よく引用されるのは人事院の「民間企業の勤務条件制度等調査」です。この調査は毎年行われていますが、調査項目は年によって入れ替わります。役職定年制を詳しく扱ったのは平成19年(2007年)で、それ以降、同じ形では調べられていません。最新の令和6年度の調査項目は、自己啓発の支援、社宅、業務災害・通勤災害の法定外給付です。役職定年の項目はありません。
つまり「23.8%の企業が役職定年制を導入している」という数字を見かけたら、それは19年前の数字です。
| 企業規模 | 役職定年制がある企業の割合 |
|---|---|
| 全体 | 23.8% |
| 500人以上 | 36.6% |
| 100〜499人 | 25.5% |
| 50〜99人 | 17.1% |
古いから間違いだ、という話ではありません。19年前の数字だと知ったうえで読むかどうかが違うだけです。
では、いまはどのくらいの会社に役職定年があるのか?
直近の民間調査では、大企業で41.0%、中小企業で17.8%です。
東京商工リサーチが2025年6月2日から9日にかけて6,483社に聞いた調査では、役職定年制を導入しているのは大企業41.0%、中小企業17.8%でした。「導入予定なし」は64.7%です。
産業別では金融・保険業が35.8%で最も高く、製造業26.8%、卸売業26.3%、運輸業25.2%と続きます。最も低いのは農・林・漁・鉱業の5.1%でした。
ここで気をつけたいのは、2007年の23.8%と2025年の数字を並べて「増えた」とは読めないことです。調査主体も、対象の選び方も、企業規模の区切り方も違います。同じものさしで測った2点ではないので、差を引き算しても意味が出ません。
言えるのは、いまでも大企業の4割ほどには役職定年がある、というところまでです。
自分の会社の制度は、去年と同じとは限らないのか?
役職定年は、いちばん手を入れられている人事制度です。
パーソルキャリアが2025年8月末に中途採用担当者に聞いた調査では、「1年以内に見直した人事制度」の1位が役職定年で42.4%でした。一方、見直しが必要なのに対応できていない制度の1位は再雇用制度で26.1%です。
同じ調査で、2025年度にミドルシニアの採用を増やす見込みだと答えた企業は、40代後半で46.7%、50代前半で40.4%、50代後半で42.1%、60歳以上で40.4%でした。
外から人を採る側の会社は、いま制度を動かしている最中です。だとすれば、他社の平均を調べるより、自社の規程を開くほうが早い。
見る先は就業規則ではなく、人事規程か賃金規程です。会社によっては「役職任期制」「ポスト定年」など別の名前になっています。社内ポータルで見つからなければ、人事に「うちに役職定年はありますか。あるなら何歳ですか」と聞けば済みます。ここは1日で終わります。
役職定年は、何歳で来るのか?
2007年の調査では、課長級で55歳が45.3%でした。ただしこれも19年前の数字です。
| 役職 | 55歳 | 57歳 |
|---|---|---|
| 部長級 | 38.3% | 24.8% |
| 課長級 | 45.3% | 16.1% |
これと並べて見ておきたいのが、いまの役職者の年齢です。厚生労働省の「令和7年 賃金構造基本統計調査」では、部長級の平均年齢は53.1歳、課長級は49.5歳でした。
ここで大事な注意があります。この平均年齢は、役職ごとに別の人を集めて出した平均です。「いま部長の自分は、あと2年で役職定年だ」という読み方はできません。
それでも、ひとつだけ言えることがあります。部長級の平均年齢と、役職定年としてよく置かれている年齢は、思っているほど離れていません。50代の入口で「まだ先の話だ」と感じるとしたら、ずれているのは感覚のほうかもしれません。

年収はどれくらい下がるのか?
2007年の調査では、課長級の82.5%が「下がる」でした。
下がると答えた企業のうち、下がったあとの年収が元の約75〜99%になるのが78.2%、約50〜74%になるのが20.4%です。「変わらない」は8.8%でした。55歳時点に限ると「下がる」は91.5%に上がり、そのうち83.4%が元の約75〜99%です。
ただし、これも19年前の数字です。そしていまは65歳までの雇用が前提になっているので、役職定年と再雇用をひとつながりで設計している会社があります。2007年の数字をそのまま自分に当てはめるのは無理があります。
自社の下がり方は、賃金規程を見るか人事に聞けば分かります。推定するより、実物を見るほうが早いです。
会社にいられる年数は伸びたのに、役職でいる年数は伸びたのか?
雇用を確保する義務は65歳まで伸びましたが、役職の年齢はそれに合わせて動いていません。
高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満にしている会社は、定年の引き上げ・定年制の廃止・65歳までの継続雇用のいずれかを行う義務があります。継続雇用の対象者を労使協定で絞れる経過措置は2025年3月31日で終わり、2025年4月からは希望者全員が対象です。さらに70歳までの就業確保措置が、2021年4月から努力義務になっています。
ここで何が起きているかというと、役職を外れてから会社にいる期間が、2007年当時より長くなっているということです。
55歳で役職を外れて60歳で定年、ではありません。55歳で外れて65歳まで、場合によってはその先まで働きます。役職定年の論点は、下がった額そのものより、その状態で過ごす年数のほうにあります。
受け入れる側から見て、役職定年で実際に変わるのは何か?
給与より先に、決める仕事がなくなります。
ここからは統計ではなく、私が見てきた範囲の話です。
給与が下がることは、たいてい本人も事前に知っています。規程に書いてあるので、驚く話ではありません。想定外だったと言われるのは、決める場面が無くなることのほうでした。
会議に呼ばれなくなるわけではありません。呼ばれますし、話も聞かれます。ただ、最後に結論を出す役が別の人に移っています。意見を言う立場と、決める立場は、席が同じでも別物です。この落差を事前に想像していた方は、多くありませんでした。
実務の量は、むしろ増えることがあります。判断から外れたぶん、手を動かす仕事が戻ってくるからです。忙しさが減るとは限りません。

降りたあとに効いていたこと
受け入れる側から見て、差が出ていたのは3つでした。
① 周りが「この人に何を聞けばいいか」を知っているかどうか
役職の名前が外れると、それまで肩書きで来ていた相談が来なくなります。そのとき残るのは、「この件はあの人に聞く」という具体的な結びつきです。ここが薄い方は、役職を外れた日から静かになります。
② 判断の履歴が残っているかどうか
「部門を見ていました」は役割の説明です。役割はその役職に付いていたものなので、外れれば一緒に消えます。残るのは、何を選んで、何を捨てたかのほうです。
③「前はこうだった」を持ち出す回数
これは分かりやすく効きます。回数が多い方ほど、周りが相談を持ってこなくなります。持っていくと過去の話になるからです。

50代のうちに準備できることは何か?
制度を調べるのは1日で終わります。時間がかかるのは、役職の名前がなくても頼られる形をつくるほうです。
- 人事規程か賃金規程で、自社に役職定年があるか、あるなら何歳かを確かめる
- あるなら、外れたあとの給与の決まり方と、再雇用との関係を確かめる
- 役職の名前が外れても成立する仕事を、ひとつ持っておく
- 判断の記録を残す
1と2は今週できます。3と4は数年かかります。だから50代の入口で読む価値があります。
4について補足すると、議事録に残るのは決まったことのほうで、誰がどういう理由でそう決めたかは残りません。決めた理由は、決めた瞬間にしか手元にありません。あとから思い出して書くのは、ほとんど無理です。
この「判断を書き残す」という話は、職務経歴書でも同じことが起きます。くわしくは40代で転職エージェントに断られる理由に書きました。
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自分から降りるのと、制度で降りるのは同じか?
同じ「役職でなくなる」でも、選べるかどうかが違います。
自分から役職を降りる場合は、タイミングも、降りたあとの仕事も、ある程度は相談できます。制度で外れる場合は、日付が先に決まっています。
ただ、降りたあとに効いてくることは同じでした。上に挙げた3つは、どちらの降り方でも変わりません。
自分から降りるほうを考えている方は、40代で管理職を辞めたいとき、辞めたいのは役割か会社かのほうが近いと思います。
まとめ
- 国が役職定年を詳しく調べたのは2007年が最後です。よく見る「23.8%」はその数字です
- 直近の民間調査では大企業41.0%、中小企業17.8%。ただし2007年の数字と引き算はできません
- 役職定年は、いま最も見直されている人事制度です。他社の平均より自社の規程を見るほうが早いです
- 65歳までの雇用は義務になりました。役職を外れてから会社にいる年数のほうが長くなっています
- 受け入れる側から見て先に変わるのは、給与ではなく決める仕事です
- 降りたあとに残るのは、役割の名前ではなく「この人に何を聞けばいいか」という結びつきです
調べるほうは今週できます。つくるほうは、今日から始めても数年かかります。
役職定年についてよくある質問
役職定年は法律で決まっているのですか?
いいえ。役職定年は会社が自分で決める制度で、法律に定めはありません。だから会社ごとに年齢も扱いも違います。法律で定まっているのは、65歳までの雇用確保措置(義務)と、70歳までの就業確保措置(努力義務)のほうです。
役職定年を断ることはできますか?
制度としてある以上、個人の希望だけで外すのは難しいのが一般的です。ただ、会社によっては専門職コースへの移行や、時期の相談ができる場合があります。まずは自社の人事規程にどう書かれているかが出発点になります。個別の事情が法的にどう扱われるかは、社内の人事か、労働問題を扱う専門家に確認してください。
役職定年で年収が下がるのは避けられませんか?
2007年の調査では課長級の82.5%が「下がる」でしたが、8.8%は「変わらない」と答えています。また、いまは再雇用まで含めて設計を見直す会社が増えています。自社がどちらかは、賃金規程を見れば分かります。
役職定年の前に転職したほうがいいですか?
どちらが得かは、自社の制度と、自分の経験が外でどう見られるかの両方で決まります。制度のほうは今週調べられます。外での見え方は確かめるのに時間がかかるので、先に動いておくほうが選択肢は多く残ります。40代・50代がどう見られているかは、40代の中途を面接して、落とした理由に書きました。
外でどう見られるかを、先に確かめておく
役職定年の年齢は規程を見れば分かりますが、自分の経験が外でどう扱われるかは、規程には書いてありません。そしてこちらのほうが、確かめるのに時間がかかります。
40代・50代の方向けに、転職タイプの診断を用意しました。8問・1分で終わります。登録は要りません。
結果では、通りやすい方向と、前に出したほうがいい経験が出ます。転職を決めていなくても、いまの立ち位置を確かめる材料にはなります。