
夜に残った仕事を片付けながら、「これ、自分がやる仕事だったか」と思ったことはありませんか。
私は現役の管理職で、部長職にいます。自分もプレイヤーとしての仕事を持っていますし、課長の立場でプレイングをしている人を、上から見てきました。
この記事は、うまくやれている人の話ではありません。限界が来ている人が、上からはどう見えているかを書きます。見え方が分かると、打つ手が変わります。
プレイングマネージャーの限界とは、何が限界に来ているのか?
時間ではなく、「自分で決めなければならないことの数」が限界に来ています。
時間が足りないのは結果であって、原因ではありません。
プレイヤーの仕事は、自分で手を動かせば終わります。マネジメントの仕事は、自分では終わらせられません。誰かに渡して、途中を見て、判断して、戻ってきたものをまた判断します。
この「判断」だけが、代わりがききません。手を動かすほうは、時間さえあれば誰かに移せます。でも、決めることは移せません。
だから、プレイングを増やすと、手を動かす時間が増えるのではなく、決めることを考える時間が消えます。
限界は、残業時間には出ません。決めるのが遅くなるという形で出ます。
日本の管理職は、どれくらいプレイヤーをしているのか?

ほぼ全員がプレイヤーを兼ねていて、仕事の半分がプレイヤー業務です。
| 調査 | 対象 | 兼務率 | プレイヤー業務の比率 |
|---|---|---|---|
| 産業能率大学 第5回(2019年) | 上場企業の課長 | 98.5% | 49.1% |
| 産業能率大学 第6回(2021年) | 上場企業の課長 828人 | 99.5% | 50.1% |
| 産業能率大学総合研究所(2019年) | 上場企業の部長 | 96% | 約40% |
2026年6月に行われた調査でも、管理職本人が答えたプレイング業務の比率は「50%」がいちばん多く20.6%、次が「30%」で18.6%でした。
つまり、プレイングをしていることは例外ではありません。 半分がプレイヤーという状態が、標準です。
ここで大事なのは、「みんなそうだから我慢する」という話ではないところです。標準だということは、個人の能力の問題ではないということです。
なぜ「マネジメントを学べ」では解決しないのか?
上と本人で、問題の見立てが違っているからです。
同じ2026年の調査で、人事担当者と管理職本人の両方に「何が課題か」を聞いています。答えがはっきり分かれました。
- 人事担当者が最も多く挙げたのは「管理職としてのパフォーマンスが不十分」(53.2%)
- 管理職本人が最も多く挙げたのは「仕事の増加や期待の高まりにより、負担が大きくなっている」(44.9%)
人事は能力の問題として見ていて、本人は量の問題として感じています。
この状態で出てくる打ち手は、たいてい研修です。そして研修は、本人にとっては「また増えた」になります。噛み合いません。
私自身、上に相談されたときに研修や本を勧めて、それが的外れだったことがあります。相手は学び方を聞きに来たのではなく、降ろす許可を取りに来ていたからです。
上の立場から見ると、限界に来た人はどう見えるのか?

本人が思っているより、ずっと早く分かります。ただし、忙しそうに見えるからではありません。
上から見て「危ない」と思うのは、次のようなときです。
- 相談が来なくなる。 来ていた相談が減ります。これは解決したからではなく、持っていく余裕がなくなったサインのことが多いです。
- 報告が「終わったこと」だけになる。 途中の話が出てこなくなります。判断する時間が取れていないと、決まったあとにしか言えることがありません。
- チームの中で、本人だけが速い。 本人がやったほうが速い状態が続くと、他の人の仕事が増えません。これは半年後に効いてきます。
どれも、頑張っていないから起きるのではありません。頑張って手を動かしているから起きます。
そしてここが厄介なのですが、この3つは短期の数字には出ません。むしろ、その期の数字は良くなることさえあります。上が気づいたときには、すでに一年近く経っていることがあります。
本人が先に気づけるサインは、どこに出るのか?
「自分がやったほうが速い」と思った回数で分かります。
一日の終わりに、その日「自分がやったほうが速いから引き取った」仕事がいくつあったかを思い出してみてください。
その判断は、一回ごとに見れば毎回正しいです。実際に速いからです。問題は、それが積み上がったときに何が起きるかです。
- 引き取った仕事の分だけ、誰かが経験する機会がなくなります
- 引き取った仕事の分だけ、自分が決める時間がなくなります
- 次に同じ仕事が来たとき、渡せる人がさらに減っています
一回ごとの正解が、合計すると不正解になる。 これがプレイングマネージャーの限界の正体だと、私は思っています。
「気をつける」では止まりません。速いのは事実で、事実に逆らうのは意志の力では無理だからです。止めるには、引き取れない形を先に作るしかありません。
プレイングをやめられないのは、なぜか?
性格ではなく、3つの条件がそろっているからです。
- 人が足りない。 渡す相手がいない、あるいは渡せる水準に達していない
- 自分が数字を持っている。 部署の目標に、自分の手持ち分が組み込まれている
- 手放したときの落ち込みを、誰も引き受けてくれない。 渡せば一時的に品質も速度も落ちます。その期間の責任は本人に残ります
3つめが、いちばん大きいと思います。
渡すことのコストは今すぐ発生して、効果は半年後に出ます。評価が半期で区切られている限り、合理的に考えるほど渡さないほうが有利になります。
だから、これは本人の覚悟の問題ではありません。落ち込む期間を、上が認めているかどうかの問題です。
上に相談するとき、何を持っていくと動くのか?

「忙しい」ではなく、「何を落とすか」を持ってきてもらえると、その場で決められます。
受け取る側として正直に書きます。「手が回りません」とだけ言われても、私は動けません。動かしたくないのではなく、何を止めていいのか分からないからです。
逆に、次の形で来たときは、その場で決められます。
- いま持っている仕事を、3つくらい並べてある(全部でなくていいです)
- そのうち、どれを誰に渡したいかが書いてある
- 渡すと、しばらく質か速さが落ちることが書いてある
- 落ちてもいいかどうかを、こちらに聞いている
最後の一行があると、上は判断ができます。そして落ちることを承知したのは上だという記録が残ります。これがないと、渡したあとの遅れが全部その人の責任になります。
「相談の仕方が下手だから通らない」のではありません。通る形が共有されていないだけです。
それでも変わらないとき、何を判断材料にするか
打ち手を出しても通らないなら、それは能力ではなく、その会社の構造の問題です。
上に持っていって、落とすものを決められなかった。人を増やす話にもならなかった。それでも来期の目標は上がった。この状態が続くなら、本人の工夫で抜けられる範囲を超えています。
そのときに見るのは、次の3つだと思います。
- 判断する時間が、一週間にどれくらい取れているか(ゼロが続くなら危険です)
- 自分の代わりに決められる人が、いま何人いるか
- その状態を、上が問題だと認識しているか
3つめが「いいえ」なら、時間が解決することはあまりありません。
外に出るかどうかは別の判断ですが、自分の経験が社外でどう見えるかを知っておくこと自体は、辞めなくてもできます。 プレイングマネージャーとして持っている「自分で回せる」という能力は、実は転職市場では評価されやすい部類です。
自分がどのタイプで、何を強みとして見られるのかは、転職タイプ診断で確かめられます。
まとめ:プレイングマネージャーの限界について
- 限界は時間ではなく、決める量に来ている(だから残業時間には出ません)
- プレイングは例外ではない(課長の約99%、部長の96%が兼務。仕事の約半分)
- 上は「能力不足」、本人は「量が多い」と見ている(だから研修が的外れになります)
- 一回ごとに正しい判断が、合計すると詰まりを作る
- 止めるには、落ち込む期間を上に認めてもらう必要がある
「自分のマネジメントが下手だから」と思っている人ほど、実際には構造のほうに原因があります。
私は上の立場で、それを見落としたことがあります。忙しそうにしている人を「頑張っているな」と見て、相談が減っていることに気づくのが遅れました。
この記事を書いた人
会社員はまち
現役の管理職(部長職)。デジタルマーケティング・EC領域。部下の人事評価をつけ、中途採用の面接をする立場にいます。転職は4回。転職がうまくいき始めたのは30代後半からでした。
40代・50代の会社員に向けて、制度と働き方について書いています。
- note:会社員はまち|note
- 抱え込みを減らす手順は、2026年10月8日に有料の記事としてまとめます
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出典
- 産業能率大学「第6回 上場企業の課長に関する実態調査」(2021年9月実施・有効回答828人)
- 産業能率大学「第5回 上場企業の課長に関する実態調査」(2019年)
- 産業能率大学総合研究所「上場企業の部長に関する実態調査」(2019年3月実施)
- リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026」(2026年6月実施・人事担当者500名/管理職層500名)