
「40代を過ぎると転職は厳しい」と言われます。一方で、求人票に「40歳まで」と書くことは、原則として法律で禁じられています。
書けないはずのものが、なぜ壁として語られるのか。
調べてみると、法律のほうには年齢の数字がちゃんと書いてありました。45歳と、55歳です。 ただしそれは求人の話ではなく、別のところに書かれていました。そして厚生労働省の統計で実際に数字が動く年齢は、そのどちらとも少しずれていました。
まず、求人票に年齢は書けません
根拠は労働施策総合推進法の9条です。
事業主は、労働者の募集及び採用について、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
「配慮しなければならない」ではなく「与えなければならない」と書かれています。努力目標ではありません。
つまり求人を出す側から見ると、年齢で切ることは原則としてできない、というのが出発点になります。
ただし、例外が6つあります
同法の施行規則1条の3第1項に、例外事由が並んでいます。番号の振られ方が少し変わっていて、1号・2号・3号イ・3号ロ・3号ハ・3号ニで、合わせて6つです。
| 内容 | |
|---|---|
| 1号 | 定年が定められている無期労働契約で、その定年年齢を上限とする場合 |
| 2号 | 法令で特定の年齢層の就労が禁止・制限されている業務の場合 |
| 3号イ | 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を無期労働契約の対象として募集・採用する場合 |
| 3号ロ | 技能継承の必要がある職種で、特定の年齢層が著しく少ない場合 |
| 3号ハ | 芸術・芸能の分野で、表現の真実性などが求められる場合 |
| 3号ニ | 60歳以上の高年齢者、または特定の年齢層の雇用促進施策の対象者に限定する場合 |
求人票の隅に「例外事由3号のイ」と小さく書かれているのを見たことがあるかもしれません。あれがこれです。
ここでひとつ、注意していることがあります。3号イの条文に、年齢の数字は書かれていません。 「若年者等」までです。何歳までを若年者とするかは条文が決めていません。民間の解説記事のなかには「おおむね45歳未満」と書いたものがありますが、労働局が出している例外事由の一覧に、その数字は見当たりませんでした。
45歳という数字は、別の法律に書かれています。
法律に書いてある年齢は、45歳と55歳です

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律、いわゆる高年齢者雇用安定法です。この法律の2条で「高年齢者」と「中高年齢者」が定義されていますが、条文そのものには数字がなく、どちらも「厚生労働省令で定める年齢以上の者」となっています。
数字は施行規則のほうにありました。
高年齢者 = 55歳以上(施行規則1条)
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律……第二条第一項の厚生労働省令で定める年齢は、五十五歳とする。
中高年齢者 = 45歳以上(施行規則2条)
法第二条第二項第一号の厚生労働省令で定める年齢は、四十五歳とする。
45歳になった日から、この法律のうえでは「中高年齢者」です。 本人の実感とは関係なく、区分が変わります。
これは「45歳以上を採ってはいけない」という意味ではありません。逆です。高年齢者雇用安定法は、この年齢以上の人の雇用を安定させるための法律です。ただ、45歳と55歳という線が制度の側に引かれていて、そこを境に呼び名が変わる、という事実はあります。
では、実際に数字が動くのは何歳からか
厚生労働省の雇用動向調査に、年齢階級別の転職入職率が載っています。その年に転職して入職した人が、常用労働者に対してどれくらいの割合いたか、という数字です。令和6年の調査ではこうなっていました。
| 年齢階級 | 男 | 女 |
|---|---|---|
| 40〜44歳 | 6.1% | 10.0% |
| 45〜49歳 | 5.8% | 10.7% |
| 50〜54歳 | 4.7% | 8.2% |
| 55〜59歳 | 5.4% | 7.6% |
| 60〜64歳 | 10.0% | 6.5% |
男女で動きが違います。
男性は45〜49歳でわずかに下がり、50〜54歳ではっきり落ちます。 40〜44歳の6.1%に対して4.7%ですから、4分の3くらいになる計算です。そして55〜59歳で少し戻り、60〜64歳で10.0%まで跳ね上がります。定年前後の動きがここに出ています。
女性はそうなっていません。45〜49歳がいちばん高くて10.7%で、40〜44歳より上です。 落ちるのはやはり50〜54歳からですが、男性ほどの落差ではありません。
つまり「45歳で壁が来る」という言い方は、少なくともこの統計とは合いません。数字が明確に動くのは、男女とも50歳からでした。
賃金のほうは40代と50代で傾向が分かれます。そちらは転職で賃金が上がる人と下がる人の割合は、40代と50代で逆転しますで同じ調査を使って整理しています。
55歳のほうに来るのは、役職定年です

もうひとつの線である55歳には、転職とは別のものが来ます。役職定年です。
人事院が毎年出している「民間企業の勤務条件制度等調査」の令和5年調査に、この項目がありました。
| 令和5年調査 | |
|---|---|
| 役職定年制がある企業の割合 | 16.7%(事務・技術関係職種の従業員がいる企業のうち) |
| 部長級の役職定年年齢で最も多いもの | 55歳(33.5%) |
| 課長級の役職定年年齢で最も多いもの | 55歳(40.3%) |
| 役職定年後の配置先で最も多いもの | 同格のスタッフ職 |
ここで押さえておきたいのは、16.7%という数字です。 役職定年は、すべての会社にある制度ではありません。6社に1社くらいです。
ただ、ある会社では部長級も課長級も55歳がいちばん多く、高年齢者雇用安定法が「高年齢者」と定める年齢と重なっています。役職から外れるタイミングと、法律上の区分が変わるタイミングが、たまたま同じ場所に来ています。
役職と法律の関係については、名ばかり管理職とは?残業代が出ない人と出る人の違いのほうで別の角度から書いています。
受ける側に立っていて感じること
部長職として、人を受ける側の会議に出ることがあります。
そこで年齢の話が出るかというと、出ることはあります。ただ、出方が想像と違うことが多いです。「何歳だから」という話にはなりません。なるのは「この人に何年ぶんの仕事をお願いすることになるのか」という話です。定年までの年数、任せたいポジションの在任期間、その次に誰が来るのか。そういう並べ方をしたときに、結果として年齢が効いてきます。
だから、同じ年齢の人でも扱いが変わります。長く続く仕事を任せたい枠では年齢が効き、いま埋めたい穴を埋める枠ではほとんど効きません。求人票からはその区別が読めないので、外から見ると「年齢の壁」という一枚の壁があるように見えるのだと思います。
統計で50歳から数字が落ちるのも、おそらく同じことの裏返しではないかと見ています。ただこれは私の見方で、調査で裏づけたものではありません。
確かめる先
| 窓口 | 扱うこと |
|---|---|
| ハローワーク(公共職業安定所) | 求人の年齢制限が例外事由に当たるかどうか。求人票の書き方 |
| 都道府県労働局 職業安定部 | 募集・採用における年齢制限禁止に関する相談 |
| 総合労働相談コーナー | どの分野の問題か分からないとき |
求人に年齢制限が書かれていて、例外事由の記載がない場合は、ハローワークか労働局に確かめられます。
まとめ
| 求人票の年齢制限 | 原則禁止(労働施策総合推進法9条)。例外は6つ |
| 例外事由3号イ | 条文に年齢の数字はない。「若年者等」まで |
| 45歳 | 高年齢者雇用安定法施行規則2条の「中高年齢者」 |
| 55歳 | 同1条の「高年齢者」。役職定年の最多年齢とも重なる |
| 転職入職率が落ちる年齢 | 50〜54歳から(令和6年雇用動向調査)。女性は45〜49歳がむしろ最も高い |
| 役職定年がある企業 | 16.7%(人事院 令和5年調査) |
45歳で法律上の呼び名は変わります。ただ、転職の数字が動くのはそこではありませんでした。動いていたのは50歳からで、しかも男女で幅が違いました。
「年齢の壁」という言い方はひとつの壁を思わせますが、制度の側に引かれた線と、統計に出る線と、採用の現場で年齢が効く場面は、それぞれ別の場所にあります。自分がどの線の話をしているのかが分かると、次に確かめることも変わってきます。
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出典
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第9条
- 同法施行規則 第1条の3第1項(例外事由)/兵庫労働局「募集・採用における年齢制限禁止」
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第2条
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則 第1条・第2条
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査 結果の概要」
- 人事院「令和5年民間企業の勤務条件制度等調査 結果の概要」