
社内で評価が高い人が、外に出ても同じように評価されるとは限りません。その逆もあります。
このずれは、気分の問題ではありませんでした。社内と社外で、見られている場所が違うというだけの話です。
部長職として、評価をつける側の会議にも、受ける側の会議にも出てきました。そこで見えた構造と、厚生労働省の調査で確かめられる数字を並べます。
評価会議で、点が動く瞬間
評価は、一人の上司が決めるものではありません。複数の管理職が集まって、すり合わせます。自分の部下について説明し、他部署の管理職から質問を受ける。そこで点が上下します。
見ていて意外だったのは、点が伸びないのは、成果があいまいな人ではなかったことです。
伸びないのは、周りがその人の仕事を説明できない人でした。
こちらが「彼は今期よくやりました」と言う。他部署の管理職が「何をしたんですか」と聞く。説明する。相手が「そうなんですね」と返す。この「そうなんですね」が出た時点で、点はもう動きません。
逆に「ああ、あの件の人ですね」と言われた瞬間には、点が上がります。すでに知られていると、こちらの説明が確認になるからです。
つまり評価は、実力そのものより、知られている範囲の広さで決まっていました。
この場面をもう少しくわしく書いたものが、note のほうにあります。→ 人事評価をつける側にいて分かった、社内評価と市場価値がずれる理由
外で見られているのも、同じ場所です
では社外はどうか。厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」に、事業所側の回答が載っています。
転職者を採用する際に重視した事項(複数回答)
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 職務経歴・職業能力 | 56.4% |
| 勤務地 | 43.8% |
| 年齢 | 42.0% |
| 雇用形態の希望 | 29.1% |
| 勤続年数 | 17.3% |
採用した理由のほうも、同じ方向を向いています。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 必要な職業能力を備えた人材を確保するため | 66.1% |
| 職務経歴のある人材を確保するため | 62.3% |
どちらも一番上に来ているのは、職務経歴と職業能力です。言い換えると「何を、どこまでやったか」が説明できる形になっているかどうか。社内の評価会議で点が動いていた場所と、同じところが見られています。
注目したいのはいちばん下です。勤続年数は17.3%しかありません。
社内では、長くいること自体が効きます。経緯を知っている、誰に話を通せばいいか分かる、あの部署にパイプがある。どれも本物の価値で、私も評価します。ただ、それは採用する側の上位5項目のうち、最下位の要素でした。
もうひとつ、3番目に年齢が42.0%で入っています。ただ、募集や採用で年齢を条件にすることは原則として禁じられていて、求人票の側からは見えません。この食い違いについては転職の「年齢の壁」は45歳か50歳かで別に整理しています。
※この調査は令和2年(2020年)に実施されたものです。以降の同調査は公表されていません。
では、なぜずれるのか

社内と社外で見られている場所が同じなら、なぜずれるのか。
「知られている範囲」の中身が違うからです。
社内で知られているのは、たとえばこういうことです。
- あの件は、まず誰に話を通せばいいか知っている
- 過去の経緯を覚えている
- 稟議の通し方が分かっている
- あの部署とのパイプがある
どれも価値です。社内では確実に効きます。
ただ、この4つは会社を出た瞬間に消えます。 持ち出せません。
一方で、外に持ち出せるのはこういうものです。
- 何を、どこからどこまで動かしたか
- そのとき数字はどれだけ動いたか
- 自分がいなければ、それは起きなかったか
社内評価の中に、消える資産と持ち出せる資産が混ざっている。その比率が人によって違うので、社内で高くて外で低い人も、社内で低くて外で高い人も出てきます。
ずれは、実際に両方向に出ています
「社内で低いから外でも通用しない」と考える人は多いのですが、数字はそうなっていません。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査で、転職して入職した人の賃金がどう変わったかを見ると、こうです。
| 割合 | |
|---|---|
| 増加した | 40.5% |
| 減少した | 29.4% |
| 変わらない | 28.4% |
上がった人が4割、下がった人が3割。どちらか一方に寄ってはいません。 外に出てみるまで、どちらに転ぶかは決まっていないということです。
この数字が年齢でどう変わるかは、転職で賃金が上がる人と下がる人の割合は、40代と50代で逆転しますのほうで整理しています。
そして多くの場合、自分がどちらなのかを知らないまま、残るか動くかを決めようとしています。 値段を見ないまま、家を売るか持ち続けるかを決めるようなものです。決められるはずがありません。
ずれの幅を測る3つの方法

幅を知るのに、転職活動をする必要はありません。軽い順に3つあります。
1. 同じ職種・同じ年次の求人票を10件見る
応募しなくてかまいません。提示額を10件並べるだけで、だいたいの位置が見えます。
2. 職務経歴書を書いてみる
出さなくてかまいません。大事なのは書けない部分のほうです。書けなかったところが、そのまま「社内でしか通じない仕事」です。書けなさが情報になります。
何を書けばいいのか分からないときは、40代で「職務経歴書に書くことがない」と感じたときに、何を書けばいいのかにまとめてあります。
3. エージェントに登録して、放置する
スカウトが来るか来ないか。来るとしたら、どういう会社からか。来ない、というのも情報です。
3つとも、辞める決心とは関係なくできます。
消える資産は、書き直せることがあります
方法2で「書けない」と感じた部分は、価値がないのではなく、社内の言葉のままになっているだけのことがあります。何をしたかではなく、何が動いたかに書き直すと、持ち出せる形になります。
| 社内の言葉のまま | 書き直したあと |
|---|---|
| 部門間の調整を担当した | 合意に3か月かかっていた承認を、関係部署を1つの会議に集める形に変えて、2週間に縮めた |
| 若手の育成を任されていた | 新しく入った人が独り立ちするまでの手順を文書にして、引き継ぎの期間を半分にした |
| あの部署にパイプがある | 止まっていた案件を、相手側の判断基準を聞き取ったうえで条件を組み直し、通した |
左はどれも社内では通じます。ただ、初対面の人には何が起きたのか分かりません。右は、会社を知らない人が読んでも輪郭がつかめます。
やったことは同じです。 変えているのは、動いたものを主語にする、という一点だけです。
書き直せない項目も出てきます。それが本当に社内でしか通じない部分で、そこが分かること自体が収穫になります。
受ける側に立っていて感じること
評価をつける側に回るまで、この構造には気づいていませんでした。
気づいてから振り返ると、社内でしか通じない資産のほうが、思っていたよりずっと溜まっていました。しかもそれは、社内でちゃんと評価されていたので、自分では気づきにくいものでした。評価が高いこと自体が、確かめる理由をなくしてしまいます。
外の値段を知ったうえで残るなら、それは消極的な残留ではなく、選んだ残留になります。知らないまま残っていると、何年かして同じことをもう一度考えることになります。
年齢によって何が変わるかについては、転職の「年齢の壁」は45歳か50歳かのほうで、法律と統計の両方から見ています。
まとめ
| 社内の評価が動く場所 | 実力そのものより、知られている範囲の広さ |
| 企業が中途採用で重視する1位 | 職務経歴・職業能力 56.4%(令和2年 転職者実態調査) |
| 同 最下位 | 勤続年数 17.3%。社内でいちばん効くものが、外では最後 |
| 転職後の賃金 | 増加40.5%/減少29.4%/変わらない28.4%(令和6年 雇用動向調査) |
| 測り方 | 求人票を10件見る/職務経歴書を書いてみる/エージェントに登録して放置する |
社内評価を市場価値の代わりに使っている人は多いのですが、根拠はありません。中に混ざっている「持ち出せる資産」と「消える資産」の比率が、人によって違うからです。
順番としては、まず自分の値段を知る。決めるのは、そのあとになります。
いまの自分がどの地点にいるのかは、社内にいると見えにくくなります。外から当てる方法として、8問・1分ほどで終わる診断を置いています。登録は要りません。
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出典
- 厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」事業所調査
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査 結果の概要」