言われたことはやる。期限も守る。ただ、それ以上はやらない。会議では発言しない。新しい仕事に手を挙げない。部下のそういう働き方に気づいて「静かな退職」と検索する上司は、少なくないと思います。
検索して出てくるのは、企業向けの「静かな退職を防ぐ仕組み」の記事です。組織としては正しいのですが、いま目の前にいる一人をどう扱えばいいかには、あまり答えてくれません。
私は評価をつける側にいます。この記事では、まず調査で静かな退職がどのくらい起きているのかを確かめ、そのうえで、評価をつける側から見て「戻ってくる人」と「戻らない人」がどこで分かれるかを書きます。
静かな退職は、どのくらい起きているのでしょうか?
聞き方によって、半数近くにも、20人に1人にもなります。
マイナビの「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」では、静かな退職を「やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすこと」と定義しています。20〜59歳の正社員3,000人に聞いたところ、静かな退職をしていると答えた人は46.7%でした。前年の44.5%から2.2ポイント増えています。
| 年代 | 静かな退職をしている割合 |
|---|---|
| 20代 | 50.5% |
| 30代 | 49.1% |
| 40代 | 42.3% |
| 50代 | 46.7% |
若い人の話だと思われがちですが、40代でも4割、50代でも半数近くです。
いっぽう、パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」は、もっと厳しい条件で数えています。月の残業が5時間未満でサービス残業がゼロ、転職したいと思っていない、出世したいと思っていない、私生活を犠牲にしてまで仕事を終わらせるべきだとは思っていない。この条件がすべてそろう人を「静かな退職者」とすると、2025年は5.8%でした。調査を始めた2017年から見ると、約1.5倍に増えています。
46.7%と5.8%。差は、定義の差です。「淡々とこなしている」と自分で答える人は半数近くいますが、行動の条件までそろう人は少ない。上司が目の前で見ている部下は、たいていこの間のどこかにいます。
静かな退職という言葉そのものの説明は、1分の動画にもまとめています。 静かな退職とは?|1分でわかる(YouTube)
周りの人には、何が起きているのでしょうか?
いちばん多いのは、仕事が寄ってくることです。
リクルートマネジメントソリューションズの「働く人の本音調査2025」では、従業員50名以上の企業で働く正社員7,105名のうち、27.7%が「職場に静かな退職者がいる」と感じていました。
そう感じている人のうち、55.1%が何らかの不利益を受けたと答えています。その中身でいちばん多かったのが「仕事量が増えた」で、47.7%でした。恩恵を受けたと答えた人も15.1%いて、その中には「相対的に自分の評価が上がった」という人もいます。
評価をつける側から見ると、ここがいちばん大事なところです。職場を傷めるのは、静かな退職そのものより、そのあとに上司がやりがちな「手の空いている真面目な人に寄せる」ほうです。寄せられ続けた人は、ある時期から同じように線を引きはじめます。
評価をつける側からは、どう見えているのでしょうか?
評価は下がりません。そこが上司をいちばん困らせるところです。

決められた仕事をこなしている人に、規程の上でつけられる低い評価はほとんどありません。期待される水準は満たしているので、評価シートの上では「標準」になります。
差が出るのは、「自分から」の欄です。改善の提案、他部署との調整、後輩への働きかけ。静かな退職をしている人は、ここが空白になります。ただ、多くの会社でこの欄は加点の項目です。空白は減点になりません。
だから「評価で動かそう」としても効きません。評価が下がらない以上、本人には働き方を変える理由がないからです。上司が打てる手は、評価の外側にあります。
戻ってくる人と、戻らない人は何が違うのでしょうか?
きっかけが職場の側にあるか、本人の側にあるかで分かれます。

マイナビの調査は、静かな退職をしている人を、きっかけで4つのタイプに分けています。
| タイプ | 割合 |
|---|---|
| 無関心タイプ | 20.6% |
| 損得重視タイプ | 18.8% |
| 評価不満タイプ | 17.0% |
| 不一致タイプ | 16.0% |
このうち「評価不満」と「不一致」は、きっかけが職場の側にあります。評価に納得できなかった、やりたい仕事と任された仕事が合わなかった。私はこちらを「引いた人」と呼んでいます。
「損得重視」と「無関心」は、本人が自分の働き方として選んでいます。こちらは「決めた人」です。
見分け方は、変わった時期があるかどうかです。引いた人は、ある時期を境に変わります。評価面談のあと、異動のあと、出した提案が通らなかったあと。決めた人は、最初からその線で一定です。
引いた人は、きっかけが変われば戻ってくることがあります。決めた人は、戻すものではありません。この2つを同じやり方で扱うと、どちらにも効きません。
引いた人には、何を確かめればいいのでしょうか?
いつから変わったのかを、本人に聞く前に、自分の記録で確かめます。
1on1で「何かあった?」と聞いても、たいてい「特にないです」で終わります。本人には、引いた理由を上司に説明する理由がありません。
先に見るのは、変わった時期の前後で、自分が何を言ったか、何を決めたかです。評価のフィードバック、任せていた仕事の取り上げ、却下した提案。記録を見返すと、心当たりが見つかることがあります。
見つかったら、そこを本人に向けて言葉にします。「あのときの評価の説明が足りなかったと思っている」。戻るかどうかを決めるのは本人ですが、きっかけを置いた側が先に動かないと、話は始まりません。
決めた人には、何を求めればいいのでしょうか?
「最低限」を言葉にして、それ以上は求めないことです。
マイナビの定義では、静かな退職は「決められた仕事を淡々とこなすこと」です。ということは、決められた仕事が何なのかが曖昧なままだと、同じ働き方が手抜きにも適正にも見えてしまいます。
だから、役割の最低限を書いて、本人と合わせます。期限、品質、報告、引き継ぎ。そこを満たしていれば、評価は標準でいい。それ以上を求めるなら、それは別の役割として、別の条件で頼むことになります。
同じ調査では、企業側の42.2%が静かな退職に「賛成」と答え、「反対」の30.1%を上回っています。会社の側も、この働き方を前提にし始めています。
いちばん効かないのは「もっと主体的に」という言葉です。基準のない要求は、決めた人には届きません。
周りに寄せないために、何を決めておけばいいのでしょうか?
あふれた仕事の行き先を、上司が決めることです。

静かな退職の影響でいちばん多いのが「仕事量が増えた」でした。寄るのは自然に起きることなので、放っておくと、たいてい真面目な人に集まります。
決めておくことは3つです。
- 誰に何が寄っているかを、上司が自分で見る。本人からは言い出しにくい
- 寄った分は、評価に書く。加点の欄に、何をどれだけ引き受けたかを残す
- 寄せきれない分は、優先度を下げる仕事として、さらに上に上げる
3つ目がいちばん難しいのですが、ここを上司が抱えると、今度は上司自身が線を引く側に回ります。
上司自身が静かな退職に近づいているときは?
それも、珍しいことではありません。
40代で42.3%、50代で46.7%。管理職の多い年代でも、決められた仕事を淡々とこなしていると答える人は4割を超えています。
部下の静かな退職がやけに気になるとき、自分のほうにも同じ線が引かれかけていることがあります。そのときは、離れたいのが「管理職という役割」なのか「いまの会社」なのかを分けて考えると、次にやることが見えやすくなります。
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まとめ
- 静かな退職は、聞き方によって46.7%にも5.8%にもなる。40代・50代でも4割を超えている
- 周りへの影響でいちばん多いのは、仕事量が増えること(不利益を感じた人の47.7%)
- 評価は下がらない。だから評価で動かそうとしても効かない
- 職場の側にきっかけがある「引いた人」は、きっかけを置いた側が先に動けば戻ることがある
- 本人が決めた「決めた人」には、最低限を言葉にして、それ以上を求めない
- 寄った仕事の行き先と、その評価は、上司が決める
静かな退職は、職場から人がいなくなる話ではなく、いる人の線が引き直される話です。どこに線があるのかが見えれば、上司がやることは思っているより少なくなります。
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出典
マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」(2026年4月13日発表/個人調査 2025年11月18〜21日・20〜59歳の正社員3,000人/企業調査 2026年1月5〜8日・807社)
パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」(2025年)
リクルートマネジメントソリューションズ「働く人の本音調査2025」第2回(2025年9月24日発表/従業員50名以上の企業に勤める25〜59歳の正社員7,105名)